花粉症(アレルギー性鼻炎・アレルギー性結膜炎)

花粉症とは

花粉症花粉症の患者数は年々増加傾向にあり、現在では実に日本人の半数弱が花粉症に悩まされているのではと言われています。花粉症の有病率は1998年に19.6%(スギ花粉症16.2%)でしたが、2018年には実に42.5%(スギ花粉症38.8%)に増えており、もはや国民病といえます。年齢では特に10代から50代にかけての方で有病率が45%以上と高くなっています。(環境省 花粉症環境保健マニュアル2022より)
花粉症の症状緩和で最も有効なことはお薬による治療ですが、セルフケアといって生活習慣を意識することで、ある程度症状を和らげることができます。

花粉症の原因

花粉症はいつ起こるの?

花粉症とは、スギやヒノキなどの花粉が原因となって生じるアレルギー症状のことです。くしゃみ、鼻水、鼻詰まりなどの症状や、目やのどのかゆみ、だるさ、皮膚炎などの症状をおこします。
花粉症の原因は、春季のスギやヒノキが多いですが、1年中様々な植物の花粉が原因となりえます。例えばイネ科植物の花粉は春季から秋季にかけて、ブタクサは夏季から秋季にかけて飛散します。花粉が飛ぶ時期には地域差があります。表は関東地方の花粉飛散時期の目安です。

関東地方の花粉飛散のめやす

表1:関東地方の花粉飛散のめやす

スギ花粉は、飛散が始まって7日から10日後くらいに花粉の量が多くなり、その後1か月程度大量に飛びます。また、この期間内に下記のような天気となると特に花粉が多く飛ぶため注意が必要となります。また花粉が飛びやすい時間帯もあります。夜間に比べ日中は大量に花粉が飛散するので注意しましょう。

花粉が特に多く飛ぶ天候

  1. 晴れて気温が高い日
  2. 空気が乾燥して、風が強い日
  3. 雨上がりの翌日や気温の高い日が2~3日続いたあと

花粉症はなぜ起こるの?

花粉症はなぜ起こるのでしょうか。花粉は体にとって邪魔者であり、異物です。その花粉が鼻の中や目にくっつくと、体がそれを追い出そうとします。鼻に入ってきた花粉をこれ以上鼻の奥に入れないために鼻の入り口が狭くなります。(鼻づまり・鼻閉)また鼻についた花粉を排出するために、鼻水が大量に出たり、くしゃみで追い出そうとしたりします。(鼻水・くしゃみ)目についたら、涙で花粉を洗い流そうとします。(流涙)

もう少し詳しく説明しましょう。注目すべき登場人物は「IgE抗体」、「肥満細胞(マスト細胞)」、「ヒスタミン」です。
花粉が目や鼻から入ってくると、粘膜にいるリンパ球が花粉を敵(異物)であると判断します。すると、リンパ球は入ってきた花粉(異物)と結合できる「IgE抗体」という物質をつくります。
この「IgE抗体」が鼻や目の粘膜にある「肥満細胞(マスト細胞)」とくっつくと、「ヒスタミン」やロイコトリエンなどの化学物質が体内に放出されます。これらの化学物質が体と反応することで、先ほど説明したくしゃみ、鼻水、鼻づまり、流涙などを引き起こし、花粉を体の外へ追い出そうとするのです。
これら「IgE抗体」、「肥満細胞」、「ヒスタミン」を中心とした反応により、花粉(異物)が再び侵入を試みたとしても、すみやかに追い出すことができるようになりますが、その結果として花粉症の症状が起こるのです。

花粉症の治療

花粉症の治療は下記に示すように様々な薬剤を用いて治療します。症状が強くなると複数の薬剤を組み合わせて治療します。

花粉症の治療

花粉症治療の全体像 (参考文献 鼻アレルギーガイドライン2020年版)

先にお話しした通り、鼻水・鼻づまりや涙の症状は、花粉を押し流すためにヒスタミンやロイコトリエンなどの体内の化学物質の影響によっておこります。ヒスタミンやロイコトリエンを抑えることができれば、鼻水や鼻づまりを軽くすることができます。

ヒスタミンを抑えるお薬を「抗ヒスタミン薬」、ロイコトリエンを抑えるお薬を「ロイコトリエン拮抗薬」といいます。特に抗ヒスタミン薬は、花粉症治療の中心であり、下記に示す通り様々な薬剤が登場していますので、患者様に合った治療をご提案します。この抗ヒスタミン薬で最も注意すべき副作用は眠気です。眠気の頻度が高い薬を服用している方は、自動車運転や精密作業に従事してはいけません。

花粉症の治療を始めるタイミングは早いほうが良いとされています。花粉が飛ぶ2週程度前、または飛んだとしてもまだ少量しか飛んでいなくて症状が弱い状況で治療を始めます。早めに薬を使うと、花粉がたくさん飛んでも症状がコントロールしやすいとされます。

主な抗ヒスタミン薬の種類

※このテーブルは横にスクロール出来ます。

薬剤一般名 薬剤商品名 眠気(%) 自動車運転
精密作業
通常服用回数
(1回1錠)
フェキソフェナジン アレグラ 0.5   1日2回
フェキソフェナジン+
ブソイドエフェドリン
ディレグラ 0.5程度   1日2回食前1回2錠
ビラスチン ビラノア 0.6   1日1回食前
ロラタジン クラリチン 0.7   1日1回
デスロラタジン デザレックス 1.0   1日1回
エピナスチン アレジオン 1.2 注意 1日1回
ベポスタチン タリオン 1.3 注意 1日2回
エバスチン エバステル 1.7 注意 1日1回
セチリジン ジルテック 2.6 禁止 1日1回
レボセチリジン ザイザル 2.6 禁止 1日1回
エメダスチン アレサガテープ 6.3 禁止 1日1枚
オロパタジン アレロック 7.0 禁止 1日2回
ルパタジン ルパフィン 9.3 禁止 1日1回

花粉症のその他の治療法

舌下免疫療法(減感作療法)

花粉症の治療方法として、「舌下免疫療法」があります。アレルギーの原因となる物質(異物)を舌の下から少しずつ摂取し、体に徐々になれさせていきます。治療期間は3~5年と長期にわたりますが、根本的な症状の軽減や改善の可能性があります。
現在スギ花粉とダニのアレルギーに対して治療が可能です。アレルギーの原因となる物質を摂取するため、摂取後に軽い体調の悪化(口の中のかゆみや腫れ感など)が起こる可能性がありますので、初回の投与はクリニック内で行います。

ゾレア(オマリズマブ)

2020年より最重症の「スギ花粉症」患者様に限り使用可能となった皮下注射薬です。ゾレアは、先にお話しした「IgE抗体」と結合することによって、「IgE抗体」が「肥満細胞(マスト細胞)」と結合することを邪魔します。「IgE抗体」が「肥満細胞」にくっつくことができなければ、「ヒスタミン」などの化学物質が作られないため、鼻水やくしゃみなどのアレルギー反応を抑えることにつながります。

ゾレアを投与できる方は以下の条件を満たす場合です。

  1. 最重症のスギ花粉によるアレルギー性鼻炎がある。
  2. スギ花粉のアレルギー検査(血液検査)結果が陽性。
  3. 花粉症の治療を1週間以上行うも効果が十分ではない。
  4. 12歳以上で、血清中の「IgE濃度」が30~1500 IU/mLで体重が20~150kgの範囲。

ゾレアの投与量と投与間隔は血清中のIgE濃度と体重によって決まります。最も安価な場合(体重が軽く、IgE値が低値の場合)の薬剤費は、3割負担で3565円※1)、1割負担で1188円※1)です。最も高価な場合(体重が重く、IgE値が高値の場合)3割負担で52286円※1)、1割負担で17429円※1)となります。詳しくはゾレアのサイト(ノバルティス社)をご覧ください。

高額療養費制度や小児であれば医療費補助等の利用ができる場合がありますので、ご相談ください。

ゾレアは非常に高い効果が期待できる薬剤で、投与後数日で効果が出始めます。例えば受験や重要な仕事などで花粉症症状を可能な限り抑えたいというご希望に沿える可能性があります。一方で複数のデメリットがあることも事実ですので、長所短所を十分に理解したうえで治療選択することが重要です。次の表はゾレアのメリットとデメリットをまとめたものです。

※1)・・・2024年4月現在

ゾレア(オマリズマブ)治療のメリットとデメリット

メリット 
  • 内服薬でコントロールできない症状を和らげる。(抗ヒスタミン薬の内服は継続する必要があります。)
  • 眠くならない。
  • 効果の持続時間が長い。(1か月程度)
デメリット 
  • とにかく高い。
  • 適応はスギ花粉症のみ。
  • 投与に条件があり、すべての方に適応があるわけではないこと(症状が強い、血液検査結果、既存の治療で効果がないなど)
  • 非常にまれだがアナフィラキシーショックの報告あり。
  • 注射による痛み

ゾレアは2~4週おきの注射が推薦されていますが、花粉症の症状が特に強い時期に合わせて注射することができれば、1回程度の注射で済むことも多いです。上表の通りアナフィラキシーショックが起こる可能性が非常にまれですが(0.1%程度)報告されていますので、投与後30分程度はクリニックで待機をお願いします。

花粉症のセルフケア

花粉症はセルフケアといって皆さんでできる治療法や予防法があります。できるだけ体につく花粉が少なくなるような生活習慣を心がけましょう。表にまとめますので参考にしてみてください。様々な対策法がありますので、まずはご自身でできそうなことからトライしてみましょう。

※このテーブルは横にスクロール出来ます。

セルフケア 解説
外出を避ける 屋外は花粉が多く飛散します。花粉症症状が強いとき、花粉の大量飛散が予測されるときは外出を避けましょう。
花粉情報のチェック ニュースやネットなどでこまめに花粉飛散情報を手に入れ、対策を考えましょう。
服装 花粉がつきにくい衣類は木綿や化学繊維(つるつるの服)です。一方、ウールは花粉がつきやすいとされますので、服装選びに気を付けましょう。
また、帽子や手袋などで肌の露出を抑えることで、体につく花粉の量を抑えることができます。
洗濯 洗濯物や布団はできるだけ外に干さないようにしましょう。
換気 窓を全開にして換気すると、大量の花粉が室内に流入するので、10cm程度あけましょう。レースのカーテンを引くと流入する花粉の量が減ります。また、換気を行うタイミングを花粉が少ない時間帯(上記)に行うこともよいでしょう。空気清浄機等もある程度の効果が期待できます。
掃除 室内に流入した花粉は、床やカーテンに大量に付着します。しっかりと掃除を行い、カーテンも定期的に洗濯しましょう。掃除機は排気で花粉を巻き上げることがありますので、クイックルワイパー®などを使用してもよいでしょう。
鼻うがい 鼻に入った花粉やほこりを洗い流します。洗浄液はドラッグストア等で購入が可能です。水道水は刺激が強く鼻の粘膜を傷つける恐れがあるため避けましょう。
鼻の粘膜の保護 鼻をかみすぎると鼻が荒れます。荒れてしまった部位にはべたつきますが白色ワセリンを塗ることができます。鼻の粘膜にも塗ることができます。他のクリームは刺激が強い可能性があるため特に鼻の穴の中に塗るのは避けましょう。保湿ティッシュの使用も検討しましょう。
加湿 乾燥は鼻の症状を悪くしますので、室内は加湿して水分を補いましょう
マスク マスクの着用で吸い込む花粉を1/3~1/6に減らし、鼻の症状を少なくすることができます。また、花粉症でない人も花粉を吸い込む量が減るため、花粉症の新たな発症を予防することが期待されます。息がしやすいが顔に隙間なくフィットするマスクがおすすめです。(間が空いていると花粉が流入します。)衛生面からは使い捨てマスクがおすすめです。マスクの内側にガーゼを当てると、鼻に入る花粉の減少が期待されます(インナーマスク)
目を洗う 花粉やほこりを洗い流します。ドラッグストア等で売っている洗眼液(人工涙液)は刺激が少ないです。目薬の使用もよいでしょう。
洗顔 帰宅後には顔の表面についた花粉をていねいに洗顔しましょう。ただし、雑にやってしまうと花粉を塗り広げているだけになり逆効果です。
眼鏡、コンタクトレンズ 眼鏡をすると、結膜に付着する花粉が通常の眼鏡で40%、防御カバーのついた花粉症用メガネでは65%減少することがわかっています。コンタクトレンズはアレルギー性結膜炎を悪化させる可能性があるので、できるだけ避けましょう。

(参考文献:アレルギーポータル、花粉症環境保健マニュアル2022)

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